京都人のための京都言葉検証講座
(語彙・文法編)

目次


検証1 「う」で終わる動詞の過去形は「~った」ではなく「~うた」

非京都的な言い方
京都本来の言い方
×「言った」 ○「言うた」
×「買った」 ○「買うた」
×「舞った」 ○「舞うた」

 「う」で終わる動詞、たとえば「言う・追う・買う・食う・習う・払う・舞う」などの過去形を「言った・追った・買った……」と言うのは中部地方より東側の言い方で、京都を中心とする畿内では本来「言うた(ゆうた)・追うた・買うた(こうた)・習うた(なろうた)・払うた(はろうた)・舞うた(もうた)」などと言います。

 これは平安時代から続く伝統ある言い方ですが、悲しいかなマスメディアによって毎日大量にもたらされる東京語の影響で、京本来の言い方を使わない(もしくは知らない・使えない)方が増えてるようです。
 この「言った・買った」式の言い方は「行った・借った」と音が一緒になる上、促音の「っ」が入ってるため子音が強調され、「言うた・買うた」式の言い方より音としての柔らみに欠けるという特徴があります。

 なお「う→うた」「なう→なうた」というように、語尾「う」の直前が「アの段の音」だった場合、「アの段の音」は「オの段の音」に変化します。この現象のことを「ウ音便」といいます。



検証2 形容詞の連用形も「~く/~くて」ではなく「~う/~うて」

非京都的な言い方
京都本来の言い方
×「高くなる・白くて」 ○「高うなる・白うて」

 これも検証1と一緒でウ音便の問題です。
 形容詞、たとえば「青い・赤い・薄い・惜しい・よい」の連用形(副詞形)を、「青く/青くて・赤く/赤くて・薄く/薄くて・惜しく/惜しくて・よく/よくて」と言うのはこれまた東日本の言い方です。
 京都では「青う/青うて・赤う/赤うて(あこう/あこうて)・薄う/薄うて・惜しゅう/惜しゅうて(訛って『惜しいて』とも)」と言うのが伝統的な言い方です。

 なお動詞の場合同様、形容詞も「あい→あうて」「たい→たうて」というように、「う」の直前が「アの段の音」だった場合は、「オの段の音」に変化します。

◇余談◇

 ウ音便に関してこんな話があります。
 昔、東国から京へ上ったある人が、茶の席で「お茶を紅葉(もみじ)に点てる」という表現を耳にします。その人はその表現の意味が分からなかったので居合わせた人に問うてみたところ、「それは“濃う良う”と“紅葉”をかけた洒落、つまりお茶を濃く良く点てることである」と教えられます。
 その人は「なるほど。これはいかにも京の都らしい表現だ」と感心し、故郷へ帰ると早速茶の席でこの話を披露しました。
 しかし東国の人はウ音便に馴染みがなかったため、誰も“濃う良う”と“紅葉”とが掛詞になっていることが、分からなかったそうです。
 このまま京都でウ音便が衰退しつづけると、京都の人間までもがこの「紅葉に点てる」の洒落がわからなくなってしまうかもしれません。



検証3 動詞の否定は「ん(ぬ)」

非京都的な言い方
京都本来の言い方
×「言わない」 ○「言わん(言わへん)」
×「言うてない」 ○「言うてへん」(「言うてる」の否定)
×「言うてない」 ○「言うたらへん」(「言うたある」の否定)

 さすがにいちばん上のはどなたでも気づくことでしょうが、2番目と3番目はちゃんぽんになってる方、結構多いように思います。

 また気づきにくい点ですが、「つまらなそう」とか「つまらなさ」など、「~なそう」「~なさ」という言い方にも注意しましょう。
「つまらなそう」は「つまらない+そう」ですし、「つまらなさ」も「つまらない+さ」だからです。

◇余談◇

 京都では平安遷都以来、動詞の否定には「ん(ぬ)」が使われ続けてきて、東日本的な「ない」が用いられたことは、かつて一時期たりともありませんでした。
 しかし東京においても元は「言わない‐見ない」より「言わ-見」という表現の方が普通だったそうです。

 特に江戸時代にはまだ「言わなくて」とか「見なかった」のような活用形がなかった*1ため、京都大坂ではもちろん江戸でも「見いで」とか「見なんだ」と言っていたといいます。
 この傾向は明治に入ってもしばらくは続き、今のように東京で「ない」の方が主流になったのは明治~大正頃のことだそうです。



検証4 「だから・だって・だけど」

非京都的な言い方
京都本来の言い方
×「だから」 ○「そやし・そやさかいに」
×「だって」 ○「そやかて」
×「だけど」 ○「そやけど・しゃあけど」

 「私は絶対『そうや』のことを『そうだ』なんて言うたりせん」と思いながらも、「だから」とか「だけど」という表現は日々普通に使ってる方、けっこう多いんじゃないでしょうか。
 しかし「から」や「けど」の「だ」も「そう」の「だ」と同じものです。



検証5 「来る/する」+「う」

非京都的な言い方
京都本来の言い方
×「~しよう」 ○「しょう」
×「~こよう」 ○「こう」

 「する」の意向形「しょう」は、一見すると「しよう」の訛ったものと解釈してしまいそうになりますが、実はそうではありません。これは元々「する」の未然形「せ」に「書こ」や「言お」などの「う」がついた「せ‐う」が変化してできたものです。なので、共通語の「しよう」とは無関係です。

 「来る」の意向形「こう」についても同じことで、これも「来る」の未然形「こ」に上記の「う」がついたものです。なので「~してこう」のことを「~してこよ」というのは東京語です。



検証6 「来る」+「へん」

非京都的な言い方
京都本来の言い方
×「こーへん」 ○「きいひん」か「きやへん」

 「へん」という否定助動詞は、「あらへん」を例に挙げれば元々「ありはせん→ありゃあせん→ありゃせん→あらせん→あらへん」と変化して明治頃成立したものです。
 そのため「来る」なら原型は「きはせん」ですので「きやへん」か「きいひん」になるのが正解です。

 「こーへん」というのは、多分に東京語の「こない」に引きずられて出来た言葉です。



検証7 日常の何気ない言葉

非京都的な言い方
京都本来の言い方
×「いってらっしゃい」 ○「おはようおかえり」

 今度は日常使われる挨拶語の問題です。京都では出かける家族を見送る際には「気ぃつけて」とか「はようかえっといで」とか言うのが普通でした。しかし最近では東京風に「いってらっしゃい」で済ます人が多いようです。
 このような東京語による日常語の置き換えは、他にも以下のようなものがあげられます。

京本来の言い方東京語による置き換え
贈り物をする際:「これ、ざんないものどすけど」「これ、つまらんものですけど」
ねぎらいとして:「はばかりさんどす」「ご苦労さんです」
よその家から帰る時:「おやかまっさんどした」「お邪魔しました」

検証講座は、音韻・アクセント編へ続きます。


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