V3. ラテン語の動詞活用の覚え方

目次

V3-1. 活用の覚え方

 ラテン語の動詞の活用形は次の3種類に大別できます。

 このうち覚えるのにもっとも手こずるのは最後のグループ、特に直説法・接続法の2法の語形ではないかと思われます。これらは語幹と語尾の両方が同時に変化するため、慣れぬうちは「はじめて目にする動詞なので辞書で意味を調べたいけれど、辞書の見出しの語形(直説法現在1人称単数)に変形させることができず辞書で調べることすらままならぬ」などという事態に陥りがちです。

 そこで本章では、直説法と接続法の語形の覚え方を重点的にご紹介してゆきます。

V3-1-1. 動詞の語形変化に関係がある法則

 本編に入る前に、動詞の活用を覚える上で役立ちそうな法則を3つご紹介します。

法則1: 接着のi

ラテン語では「子音で終わる語」の後ろへ「子音で始まる語」をくっつけようとする際に、両者の間に短い-i-が現れて接着剤の役目を果たすことがよくあります。

  • amāb+t(直説法未来幹+3人称単数語尾) → amābit.
  • leg+nt(直説法現在幹+3人称複数語尾) → legint.

この現象は、子音で終わる語に子音で始まる語が直接付くと子音が続くことになって発音しにくいため、言いやすくするために短い-i-が差し込まれるというふうに考えられます(例: leg+mus → leg-i-mus → legimus)。

法則2: iのe化(i→e変化)

短いiは、rの前または語末でeに変化します。この「短いi」には法則1により挿入されたiも含まれます。
これに対して長いīは、rの前や語末でもそのままです。

  • capi+re(不定法・現在・能動態の語尾) → capere
  • audī+re(不定法・現在・能動態の語尾) → audīre
  • capi(命令法・現在・2人称単数・能動態) → cape
  • audī(命令法・現在・2人称単数・能動態) → capī
法則3: 長母音の短母音化

語幹末にある長母音は、以下どちらかの条件を満たすと短母音化します。

a) 活用語尾が付くことで閉音節になる時。ただし例外として、その閉音節が-s, -nsで終わる場合は長母音のまま。

  • amā+t → amat(短母音化)
  • amā+nt → amant(短母音化)
  • amā+s → amās(例外。-sで終わるので長母音のまま)
  • amā+ns → amāns(例外。-nsで終わるので長母音のまま)

b) 母音で始まる接辞が後ろに続く時。ただし語幹末母音が-āの場合は短母音化するのではなく完全に脱落する。

  • vidē+ō → videō
  • amā+ō → amō(amaōとはならず)

V3-2. 動詞の基本語幹3形~辞書の見出しの語形

 ラテン語の動詞には基本となる語幹が3つあります。

 これら基本3語幹の形と活用の類別とを示すため、ラテン語の辞書では、動詞の見出しのところには次の4つの語形が記されています。

  1. -ōで終わる形(直説法・現在・1人称単数・能動態の形)
    辞書の見出しとして使われる形。これと4番目の不定法・現在・能動態の形とを合わせて見ることで、動詞の類別が分かる。またこの形は未完了幹を示す役割も兼ねている。

  2. -īで終わる形(直説法・完了・1人称単数・能動態の形)
    この形から語尾-īを取り去ったものが完了幹。

  3. -tum/-sum(スピーヌム/supinumの対格)または -tus/-sus(完了受動分詞の単数男性主格)で終わる形
    動詞に-tで始まる接辞(-tum, -tus, -tūrusなど)が付いた時の語幹の形を示す。語幹末に「舌先で発音する子音(t, dなど)」が存在する動詞に-tum, -tus, -tūrusなどが付くと、しばしば子音の融合が起こって-sum, -sus, -sūrusに変化する(例:vidē- + -tum → vīsum)。

  4. -re/-seで終わる形(不定法・現在・能動態の形)
    動詞の類別を示す。辞書によっては語尾を示す代わりに動詞の類別番号(1~4。前々章参照)をそのまま載せていることも。

 例えば「amō, amāvī, amātum, amāre」と書かれていたら、次のようなことが分かります。

 動詞の中には能動態がなく、受動態の語形しか存在しないものもあります。このような動詞のことをラテン語では "verba deponentia" と言います。日本語では本によって「形式受動詞、形式所相動詞、形式受動態動詞、deponent動詞」など様々な訳し方をされていますが、以下、本頁では一番短い「形式受動詞」で統一します。
 形式受動詞の場合、前記の4語形の代わりに次の3語形が示されます。

  1. -orで終わる形(直説法・現在・1人称単数・受動態の形):見出しに使われる形でもある。
  2. -tum/-sum(スピーヌム/supinumの対格)または -tus/-sus(完了受動分詞の単数男性主格)で終わる形:通常の動詞の場合と同じ。
  3. -rī/-īで終わる形(不定法・現在・受動態の形)

 たとえば「mīror, mīrātum, mīrārī」のように書かれていたら、次のことが分かります。

 ラテン語の動詞には、受動態の完了(~されてしまった)を一語で言い表すための専用の語形が存在しません。完了の受動態は「完了受動分詞」と「不規則活用動詞sumの活用形」との組み合わせによって表現されます。しかしラテン語の完了受動分詞とスピーヌムとはどちらも語幹が同じスピーヌム幹であるため、通常の動詞と同じ語幹の示し方をしますと、スピーヌム幹が2回出てくることになってしまいます(例:mīror, mīrātus sum, mīrātum, mīrārī)。これではスペースの無駄遣いとなってしまいますので、受動態の語形のみ存在する動詞では先述のような3語形を示すことになっています。

V3-3. 直説法と接続法1・直説法と接続法における語幹の拡張

 直説法と接続法では、動詞の語幹に対して拡張が施されます。活用による動詞の語形変化を効率よく覚えるには、このような「語幹の拡張」と、後に出てくる「語尾の変化」とを分けて考えるようにすることが重要です。

 基本3語幹のうちの1つ、未完了幹からは次の5つの語幹が派生します。

未完了幹から派生する語幹1


現在幹

未完了幹そのもの。すなわち未完了幹=直説法現在幹。
例:amā-, vidē-, leg-, capi-, audī-.

半過去幹

ā幹・ē幹の場合:未完了幹の後ろに-bāが付いたもの。例:amā-, vidē-.

子音幹・i幹・ī幹の場合:未完了幹の後ろに-ēbāが付いたもの。このときī幹動詞では、未完了幹末尾の長母音が短母音化する(īēbā→iēbā. ⇒法則3のb)。例:legēbā-, capiēbā-, audiēbā-.

未来幹

ā幹・ē幹:未完了幹の後ろに-bが付いたもの。例:amāb-, vidēb-.

子音幹・i幹・ī幹:未完了幹の後ろに1人称単数には-a、それ以外には-ēが付いたもの。このときī幹動詞では、未完了幹末尾の長母音が短母音化する(īē/īa→iē/ia. ⇒法則3のb)。例:legē-, capiē-, audiē-.



現在幹

ā幹動詞:未完了幹の語末母音-āを-ēに代えたもの。これは長母音-ēが付くことで未完了幹末尾の-āが脱落したとも解釈できる(⇒法則3のb)。例:amē-.

それ以外:未完了幹の後ろに-āが付いたもの。このときē幹動詞およびī幹動詞では、未完了幹末尾の長母音が短母音化する(ēā, īā→eā, iā. ⇒法則3のb)。例:videā-, legā-, capiā-, audiā-.

半過去幹

全類共通:未完了幹の後ろに-rēが付いたもの。このとき子音幹動詞では-rēの前にe(接着のiがrの前でeに変化したもの)が挿入される(⇒法則12)。またi幹動詞では未完了幹末尾のiがeに変化する(⇒法則2)。
例:amā-, vidē-, legerē-, caperē-, audī-.

 直説法は、ā幹・ē幹ペアと、子音幹・i幹・ī幹のトリオとで、異なるルールに基づいて語幹拡張されるのが特徴です。

 未完了幹から派生する語幹を一覧にしたのが次の表です。-の左側が未完了幹の語末で、その右側の下線が引かれた赤い文字の箇所が基本語幹に接ぎ木される拡張語幹の部分です。拡張語幹が付くことによって未完了幹の末尾母音が変化する箇所は、青緑の太字で示しています。

未完了幹から派生する語幹2
直説法 接続法
現在半過去未来 現在半過去
ā幹 amā- amā- amā-b *1 amē- amā-
ē幹 vidē- vidē- vidē-b *1 vide-ā *2 vidē-
子音幹 leg- *1 leg-ēbā leg-ē(1人称単数のみ leg-a leg-ā leg-erē *3
i幹 capi- capi-ēbā capi-ē(1人称単数のみ capi-a capi-ā cape- *4
ī幹 audī- audi-ēbā *2 audi-ē(1人称単数のみ audi-a*2 audi-ā *2 audī-

 接続法半過去の語幹については、「不定法・現在・能動態の形の語尾から-eを取り、かわりに-ēを付け足す」という覚え方もあります。

 続いては完了幹から派生する語幹です。こちらは未完了幹の場合に比べて非常にシンプルです。

完了幹から派生する語幹1


完了幹

完了幹そのもの。すなわち完了幹=直説法完了幹。

大過去幹

完了幹の語末に-erāを追加したもの。

未来完了幹

完了幹の語末に-eriを追加したもの。
ただし1人称単数のみ最後のiが落ちて-erとなる。



完了幹

完了幹の語末に-erīを追加したもの。

大過去幹

完了幹の語末に-issēを追加したもの。

 未完了形の場合と異なり、完了の諸形はどの動詞も共通のルールに基づいて語幹が拡張されます。類によって異なる拡張が施されるということがありません。

 完了幹から派生する語幹を一覧にしたのが次の表です。先ほど同様、-の左側が未完了幹で、その右側の下線が引かれた赤い文字の箇所が基本語幹に接ぎ木される拡張語幹の部分です。

完了幹から派生する語幹2
直説法 接続法
完了大過去未来完了 完了大過去
ā幹 amāv- amāv-erā amāv-eri(1人称単数のみ amāv-er amāv-erī amāv-issē
ē幹 vīd- vīd-erā vīd-eri(1人称単数のみ vīd-er vīd-erī vīd-issē
子音幹 lēg- lēg-erā lēg-eri(1人称単数のみ lēg-er lēg-erī lēg-issē
i幹 cēp- cēp-erā cēp-eri(1人称単数のみ cēp-er cēp-erī cēp-issē
ī幹 audīv- audīv-erā audīv-eri(1人称単数のみ audīv-er audīv-erī audīv-issē

 完了幹の場合はどの類も単純に語尾を付け足すだけで語形が出来上がるので覚えるのも簡単です。ただ唯一、「直説法未来完了の1人称単数だけは最後のiが落ちる」という点にのみ注意する必要があります。

 さてここからは少し余談になりますが、ラテン語にはかつて「母音に挟まれた-s-は-r-に変化する」という現象が大々的に起こりました。このことと前述の法則2「rの前で短いiはeになる」こととを併せて考えますと、完了幹から派生した語幹は全般に-is-という要素を含んでいることが分かります。

完了語幹の変遷(推定)
1. 語幹の構成 2. -s-の-r-化 3. -irの-er化
直説法・大過去幹 -is+ā → -isā → -irā → -erā
直説法・未来完了幹 -is+i → -isi → -iri → -eri
接続法・完了幹 -is+ī → -isī → -irī → -erī
接続法・大過去幹 -is+sē → -issē

 そしてこれを未完了幹の表と見比べてみますと、接続法大過去の拡張幹である-sē-はほぼ確実に、そして直説法大過去の拡張幹である-ā-も恐らくは、それぞれ未完了幹における同法の半過去の拡張幹と元は同じものであったらしいことが見えてきます。

-sē-幹と-ā幹
接続法 直説法 備考
半過去
(未完了過去)
大過去
(過去完了)
半過去
(未完了過去)
大過去
(過去完了)
ā幹 ā- → ārē -is -bā -isā → irā → erā -の左は、
・半過去なら未完了幹、
・大過去なら完了幹。
ē幹 ē- → ērē
子音幹 -i → irē → erē -ēbā
i幹 i- → irē → erē
ī幹 ī- → īrē

 語幹についてはここまでです。

V3-4. 直説法と接続法2・直説法と接続法の語尾

 ここからは語幹の後に付けられる人称語尾についてです。
 直説法と接続法における語尾の変化パターンには次の4通りがあり、それぞれ出現するところが決まっています。

直説法と接続法・能動態の語尾
1人称 2人称 3人称 出現箇所
単数複数 単数複数 単数複数
m型 -m-mus -s-tis -t-nt 基本語尾。接続法すべてと
下以外の直説法で使われる。
ō/nt型 -mus -s-tis -t-nt 直説法のうち、ā幹ē幹の現在形と
全類の未来完了形。
ō/unt型 -mus -s-tis -t-unt 直説法のうち、子音幹i幹ī幹の現在形と
ā幹ē幹の未来形。
ī型 -imus -istī-istis -it-ērunt 直説法の完了形のみで使われる専用語尾。
3複には-ēruntのかわりに-ēreも使われる。

 1人称単数に-ō型語尾が現れるのは、直説法のうち現在形すべてと未来完了形すべて、そしてā幹ē幹の未来形(拡張語幹が-bで終わる形)です。既に終わったことを述べる際(半過去形・完了形・大過去形)には-ō型語尾は現れません。

 ō/unt型の語尾は、子音幹動詞の直説法現在形(子音終わり)またはā幹ē幹の未来形(b終わり)に付く時、1人称単数語尾 (-ō) と3人称複数語尾 (-unt) とを除いて語尾の前に接着のiが発生します(前節の表「未完了幹から派生する語幹2」で*1の付いていた箇所)。
 たとえばleg-という動詞語幹にō/unt型語尾が付くと、次のようになります。

leg+ō/unt型語尾
1人称 2人称 3人称
単数 legō legis legit
複数 legimus legitis legunt

V3-4-1. 受動態の語尾

 能動態の人称語尾を次のように置き換えると受動態の人称語尾になります。

3人称

3人称は単数・複数とも能動態の語尾の後ろに-urを付ける。

  • -t → -tur,
  • -nt → -ntur.

なおこれにより3人称単数のほうは-turの前が開音節となるため、その直前にある母音は本来の長さで発音されるようになる。

  • amat (amā + -t) + ur → amātur,(開音節化により長母音が復活する)
  • capit (capi + t) + ur → capitur.(開音節化しても短母音は短母音のまま)
1人称

1人称は、子音で終わる語尾ならその最後の子音を-rに置き換える。

  • -m → -r,
  • -mus → -mur.

-ōで終わるならそのまま-rを付け足す。なおこれによりōは閉音節となるため短母音化する。

  • -ō → -or.
2人称

2人称は次のように置き換える。丸暗記。

  • -s → -ris(直説法現在を除いて -re という語尾も併存),
  • -tis → -minī.

単数形語尾 -ris (-re) の直前が -i- であった時は -e- に変わることに注意。法則2

  • capis → caperis.

 語幹のところでも触れました通り、ラテン語の場合、完了の諸形(現在完了、大過去、未来完了)の受動態は一語で言い表せません。これらは完了受動分詞と動詞sumの活用形とを組み合わせて言います。そのため-ī型語尾には対応する受動態語尾が存在しません。

V3-5. 直説法と接続法3・直説法と接続法の語形のまとめ

 これまで見てきた語幹の表と語尾の表とを統合した表を次に示します。

直説法と接続法の語尾一覧
1人称 2人称 3人称 出現箇所
単数 複数 単数 複数 単数 複数
m型 能動 -m-mus -s-tis -t-nt 基本語尾。接続法すべてと下以外の直説法で使われる。
受動 -r-mur -ris *2-minī -tur-ntur
ō/nt型 能動 -mus -s-tis -t-nt 直説法のうち、ā幹ē幹の現在形と全類の未来完了形。
受動 -or-mur -ris *2-minī -tur-ntur
ō/unt型 能動 -mus -s-tis -t-unt 直説法のうち、子音幹i幹ī幹の現在形とā幹ē幹の未来形。
受動 -or-mur -ris *2-minī -tur-untur
ī型 能動 -imus -istī-istis -it-ērunt 直説法の完了形でのみ使われる専用語尾。
3複には-ēruntのかわりに-ēreも使われる。
受動 -- -- --
未完了幹を基礎とする形の語構造
直説法 接続法
現在半過去未来 現在半過去
ā幹 amā-ō/nt型 amā--m型 amā-b-ō/unt型 *1 amē-m型 amā--m型
ē幹 vidē-ō/nt型 vidē--m型 vidē-b-ō/unt型 *1 vide-ā-m型 *2 vidē--m型
子音幹 leg-ō/unt型 *1 leg-ēbā-m型 leg-ē-m型 *4 leg-ā-m型 leg-erē-m型 *3
i幹 capi-ō/unt型 capi-ēbā-m型 capi-ē-m型 *4 capi-ā-m型 cape--m型 *5
ī幹 audī-ō/unt型 audi-ēbā-m型 *2 audi-ē-m型 *2,*4 audi-ā-m型 *2 audī--m型
完了幹を基礎とする形の語構造
直説法 接続法
完了 大過去 未来完了 *1 完了 大過去
ā幹 amāv-ī型 amāv-erā-m型 amāv-eri-ō/nt型 amāv-erī-m型 amāv-issē-m型
ē幹 vīd-ī型 vīd-erā-m型 vīd-eri-ō/nt型 vīd-erī-m型 vīd-issē-m型
子音幹 lēg-ī型 lēg-erā-m型 lēg-eri-ō/nt型 lēg-erī-m型 lēg-issē-m型
i幹 cēp-ī型 cēp-erā-m型 cēp-eri-ō/nt型 cēp-erī-m型 cēp-issē-m型
ī幹 audīv-ī型 audīv-erā-m型 audīv-eri-ō/nt型 audīv-erī-m型 audīv-issē-m型

V3-5-1. 注意点・ヒント

 直説法と接続法については以上ですべてです。

V3-6. スピーヌム・分詞・動名詞

 この節では主語の性(男性、女性、中性)と数(単数か複数)とによって語形が変化する言い方を取り上げます。該当するのは「スピーヌム」「分詞」「動名詞 (gerundium)」の3種類です。
 性と数とに応じて変化するという性質からも分かる通り、これらはすべて名詞相当(スピーヌムと動名詞)または形容詞相当(分詞)として扱われ、名詞や形容詞と同じように曲用もします。

V3-6-1. スピーヌム

 スピーヌムとは「~するために」という意味を表すことから目的分詞とも呼ばれ、たいていは「行く・来る」などの動詞と組み合わせて使われます。

 文法上は「単数対格と単数奪格の2形しか存在せぬ4類ū幹名詞」として扱われます。スピーヌムの対格は「動詞語幹+tum」、同奪格は「動詞語幹+tū」という形になるのが基本パターンですが、動詞本体の最後のほうに舌先で発音される子音(t, d, sなど)があると、それと融合してスピーヌムの語尾は「~sum」「~sū」という形になることもあります。

スピーヌムの語尾
第1類
ā幹
第2類
ē幹
第3類
子音幹
第3類
i幹
第4類
ī幹
語例 amō videō legō capiō audiō
対格 amā-t-um -s-um lēc-t-um cap-t-um audī-t-um
奪格 amā-t-ū -s-ū lēc-t-ū cap-t-ū audī-t-ū

 表中 videō という動詞のスピーヌムは、vīdē + tum = vīsum と接合部の子音が融合して -s- になっています。

 スピーヌムは未完了幹とも完了幹とも異なる専用の語幹を持つことから、辞書では普通、動詞の見出しのところにはスピーヌムの単数対格の形が併記されています。
 もっとも辞書や単語によっては、スピーヌムのかわりに完了受動分詞や未来能動分詞(ともに後述)の形が示されていることもあります。これら3形には「t-で始まる語尾が付いている」という共通項があり、ほとんどの動詞で語幹部分が同じ形になる*1ことから、どれか1つの語形が分かればそこから容易に他の2形を導き出すことができるのです(例:スピーヌム vīsum, 完了受動分詞 vīsus, 未来能動分詞 vīsūrus)。

V3-6-2. 分詞

 能動態の分詞には現在形と未来形とがあり、受動態の分詞には完了形と未来形とがあります。

 文法上は形容詞相当の働きをし、形容詞と同じように修飾対象の性や数に合わせて曲用します。現在能動分詞は「~しつつある」、完了受動分詞は「~された状態にある、既に~されている」、未来能動分詞は「~することになっている」、未来受動分詞は「~されることになっている」というような意味をそれぞれ表します。

 分詞のうち完了受動分詞は高頻度で使われます。基本語幹のところでも述べましたが、ラテン語には完了の受動態に相当する専用の語形が存在せず、かわりに「完了受動分詞とsumの活用形との組み合わせ」によって言い表すためです。

 分詞の語形一覧表を次に示します。未完了幹の末尾母音が変化する箇所は、青緑の太字で示しています。

分詞の語尾
現在 完了 未来
能動態受動態 能動態受動態
ā幹 amā-ns, -ntis amā-t-us, -a, -um amā-t-ūrus, -a, -um ama-ndus, -a, -um *1
ē幹 vidē-ns, -ntis -s-us, -a, -um -s-ūrus, -a, -um vide-ndus, -a, -um *1
子音幹 leg-ēns, -ntis lēc-t-us, -a, -um lēc-t-ūrus, -a, -um leg-endus, -a, -um
i幹 capi-ēns, -ntis cap-t-us, -a, -um cap-t-ūrus, -a, -um capi-endus, -a, -um
ī幹 audi-ēns, -ntis *2 audī-t-us, -a, -um audī-t-ūrus, -a, -um audi-endus, -a, -um *2

 現在の能動態の形と未来の受動態の形は未完了幹から派生し、完了の受動態の形と未来の能動態の形(語尾がtで始まるもの)はスピーヌム幹から派生します。

 スピーヌム幹から派生する2形は、スピーヌムの対格語尾-umを取り去って、かわりに-us, -a, -um型の語尾を付ければ完了受動の形が出来上がり、-ūrus, -a, -um型の語尾を付ければ未来能動の形が出来上がります。
 一方、未完了幹から派生する2形は、ā幹・ē幹の組と、子音幹・i幹・ī幹の組とで異なる語尾が付きます。

現在能動分詞と未来受動分詞の語尾
第1類
ā幹
第2類
ē幹
第3類
子音幹
第3類
i幹
第4類
ī幹
語例 amō videō legō capiō audiō
現在能動分詞 未完了幹-ns, ntis 未完了幹-ēns, ēntis
未来受動分詞 未完了幹-ndus, a, um 未完了幹-endus, a, um *1

 現在能動分詞には次のような補足事項があります。

V3-6-3. 動名詞 (gerundium)

 動名詞とは動詞と名詞、両方の特性を兼ね備えた語形です。「何々すること」という意味を表し、名詞のように曲用する一方で動詞のように目的語を取ることもできます。
 動名詞は次表に示す通り、前出の未来受動分詞の単数中性の活用形とまったく同じ語形をしています。

動名詞 (gerundium) の語尾
第1類
ā幹
第2類
ē幹
第3類
子音幹
第3類
i幹
第4類
ī幹
語例 amō videō legō capiō audiō
対格 ama-ndum vide-ndum leg-endum capi-endum audi-endum
属格 ama-ndī vide-ndī leg-endī capi-endī audi-endī
与格 ama-ndō vide-ndō leg-endō capi-endō audi-endō
奪格 ama-ndō vide-ndō leg-endō capi-endō audi-endō

 動名詞は主格の形を欠いています。「何々することが」という動名詞の主格相当の表現は、次節で取り上げる「不定法」によって言い表すことができます。

V3-7. 不定法(不定詞)

 不定法のうち能動態現在の形は、辞書の見出しで4番目に示される形ということもあって、これまでにも何度か出てきました。
 しかしラテン語の不定法は1つではありません。現在・完了・未来という3つの時制それぞれに、能動態・受動態の区別があります。つまり3つの時制×2つの態=6つの言い方が存在します。

 もっともこのうち「完了の受動態」「未来の能動態・受動態」には専用の語形というものがなく、それぞれ次の形でもって代用されます。

 従いまして改めて覚える必要があるのは「現在の能動態・受動態」「完了の能動態」の3形だけです。

不定法の語尾
現在 完了 未来
能動態受動態 能動態受動態 能動態受動態
ā
amā-re amā- amāv-isse 完了受動分詞
amātus, a, um + esse
未来能動分詞
amātūrus, a, um + esse
スピーヌム
amātum + īrī
ē
vidē-re vidē- vīd-isse 完了受動分詞
vīsus, a, um + esse
未来能動分詞
vīsūrus, a, um + esse
スピーヌム
vīsum + īrī


lege-re *1 leg-ī lēg-isse 完了受動分詞
lēctus, a, um + esse
未来能動分詞
lēctūrus, a, um + esse
スピーヌム
lēctum + īrī
i
cape-re *2 cap-ī cēp-isse 完了受動分詞
captus, a, um + esse
未来能動分詞
captūrus, a, um + esse
スピーヌム
captum + īrī
ī
audī-re audī- audīv-isse 完了受動分詞
audītus, a, um + esse
未来能動分詞
audītūrus, a, um + esse
スピーヌム
audītum + īrī

 表中 '-' が語幹と不定法語尾との境界を表します。ご覧の通り、もっとも規則的なのは完了の能動態で、常に「完了幹+isse」という形で表されます。直説法・接続法の解説のところで完了幹から派生する語形は「どの類も単純に語尾を付け足すだけで語形が出来上がる」と書きましたが、この法則は不定法の場合にも当てはまることが分かります。

 現在の能動態は「完了幹+不定法現在能動態の語尾re」というのが基本形です。その際、子音幹の場合には-reの前に接着のiが挿入されること(法則1)、そして-reの直前がiであった場合は、それが接着のiであった場合も含めてeに変化すること(法則2)、などはこれまでにも見てきた通りです。

 現在の能動態の形の末尾の-eを取り去って、かわりに-īを付けると(即ち -re → -rī にすると)現在の受動態の形になります。ただし子音幹動詞とi幹動詞とにおいては、語末は -erī ではなく -ī という形になります。

 なお不定法の形はすべて、文法上は単数の中性名詞として扱われます。例:Errāre hūmānum est.

V3-8. 命令法

 ラテン語の命令法には次のような形があります。-の左側が未完了幹の語末で、未完了幹の末尾母音が変化する箇所は、青緑の太字で示しています。

命令法の語尾
現在 未来
能動態受動態 能動態受動態
ā

2人称 amā amā-re amā- amā-tor
3人称 -

2人称 amā-te amā-minī amā-tōte -
3人称 - ama-ntō ama-ntor
ē

2人称 vidē vidē-re vidē- vidē-tor
3人称 -

2人称 vidē-te vidē-minī vidē-tōte -
3人称 - vide-ntō vide-ntor



2人称 *1 lege *2 lege-re *2 legi- legi-tor
3人称 -

2人称 *1 legi-te legi-minī legi-tōte -
3人称 - leg-untō leg-untor
i

2人称 cape *2 cape-re *2 capi- capi-tor
3人称 -

2人称 capi-te capi-minī capi-tōte -
3人称 - capi-untō capi-untor
ī

2人称 audī audī-re audī- audī-tor
3人称 -

2人称 audī-te audī-minī audī-tōte -
3人称 - audi-untō audi-untor

 命令法で注意を要するのは、子音幹とi幹の動詞における2人称単数現在の形です。子音幹動詞は「未完了幹+e」という形になって、i幹動詞も語幹末母音iがeに変化します。
「接着のi」「-rの前または語末でのi→e変化」「閉音節化による短母音化」などに注意しつつ語尾を付け足せば、それぞれ語形が導き出せます。

命令法現在

 2人称のみが存在します。数に単数・複数の区別があり、態に能動・受動の区別があることから、動詞ごとに2数×2態の4形が存在します。

  • 2人称単数の能動態:不定法・現在・能動態の形(辞書の見出しで4番目に載っている形)から語尾の-re/-seを取った語形に等しい。
  • 2人称単数の受動態:前述(2人称単数の能動態現在)の形に-reを付け足したもの。これはほとんどの動詞において不定法・現在・能動態の語形に等しい。
  • 2人称複数の能動態:未完了幹+te。子音幹動詞に付く時には接着のiが現れることにのみ注意。
  • 2人称複数の受動態:未完了幹+minī。これは直説法現在受動態の2人称複数の形とまったく同形。即ち2人称複数の受動態については、現在の事実を述べているのか命令をしているのか語形からは区別がつかぬ。
命令法未来

 2人称と3人称の形が存在します。単数の場合は常に2人称の言い方と3人称の言い方とは同形です。語形から判断するに、これは3人称の言い方を2人称としても使うようになったのではないかと考えられます。
 一方複数の場合は2人称と3人称とで言い方が異なります。

3人称(および2人称)単数の能動態

 直説法・現在・受動態の3人称単数の形の語尾から-urを取り去って、かわりに-ōを付け足した語形に等しい。即ち未完了幹+tōという形。
 直説法・現在・能動態の3人称単数の形の後ろに-ōを付け足したものと覚えても良いが、この付け足しにより a/mat → a//tō のように語幹末が開音節化するため、語幹末母音本来の長さが復活することに注意。

3人称(および2人称)単数の受動態

 直説法・現在・受動態の3人称単数の形の語尾から-urを取り去って、かわりに-orを付け足した語形に等しい。即ち前述の3人称単数の能動態の形にさらに-rを付け足したもの。-rを付け足すことで最終音節が閉音節化するため、末尾の-ōは短母音化して語末は-torで終わる。

3人称複数の能動態

 直説法・現在・能動態の3人称複数の形の語尾に-ōを付け足した形に等しい。即ち未完了幹+(u)ntōという形。

3人称複数の受動態

 直説法・現在・受動態の3人称複数の形の語尾から-urを取り去って、かわりに-orを付け足した語形に等しい。即ち前述の3人称複数の能動態の形にさらに-rを付け足したもの。これも-rを付け足すことで最終音節が閉音節化するため、末尾の-ōは短母音化して語末は-(u)ntorで終わる。

2人称複数の能動態

 前述の2人称(および3人称)単数の能動態の形にさらに-teを付け足した語形に等しい。

 なお命令法未来は、2人称複数の受動態を欠いています。

 現在・未来にかかわらず、能動態の2人称複数の形は必ず-teで終わります。