5-4. 仮名の対応予定

 UnicodeのSMPに符号化されている仮名文字は、Unicode 6から9までの間は1B000..1B001の2文字だけでしたが、Unicode 10以降は数が増え、Unicode 13では294文字にまでなっています。
 この頁では1B000..1B001以外の仮名文字について、当サイトのフォントで対応する予定があるかないか、またその理由についてまとめました。

目次

原則

 フォントに収録するかどうかの判断基準は、音韻論・音声学的に見て面白味があるかどうかが主です。

1B002..1B11E: 変体仮名

 変体仮名は機能的には現行のひらがなの重複に過ぎず、表記できる音の種類が増えるわけではないので面白味を感じていません。ゆえにこの範囲の文字のグリフを自作することは考えていません。

1B150..1B167: 小さい仮名

 Unicode 13現在、次の7文字が符号化されています。

 このうち小さい「ゐゑヰヱ」は歴史的漢字音のkwi, gwi, kwe, gweを表記するのに使われることがあり、辞書の中にも字音表記に使用しているものがあります。当サイトのフォントでもいずれ対応したいと考え、CIDを確保してあります。
 現時点で対応していないのは、これら4字のグリフを複数ウェイト分(錦明朝+霧ゴシック×3+霧明朝×3)作るだけの時間と気力とが確保できないためです。

 残りの3文字のうち小さい「をヲ」は、一見しますと先の4文字同様にkwo, gwoを表すためのものと考えられそうですが、私の知る限り漢字音に関しては ko←→kwo, go←→gwo のような対立は成立しなかった(もしくは合拗音というものが確立される前に o←→wo の区別が消滅してしまった)ようですので、小さい「ゐゑヰヱ」とは別枠のものとして考えています。
 小さいンに関しても同様に別枠と考えています。小さな仮名用グリフも作るのに手間が掛かりますので、小さい「をヲン」については明確な用途が思い付くまで保留としています。

 余談ですが、Small Kana Extensionブロック (1B130..1B16F) 内で前記7文字が離れて符号化されているのは、まだ符号化されていない小さな仮名を将来符号化することになった際に、五十音順に並べられるように配慮されているためです(小さな「ぁ(U+3041)」から「ゕ(U+3095)」までは符号化済み。小さな「き」がU+1B130に入り、小さな「く」がU+1B131、小さな「ゖ」は既にU+3096にあるので飛ばして、小さな「こ」がU+1B132に入り、以下、小さな「さしすせそ……」と続く)。

1B11F..1B122: YI, WUなど(Unicode 14で入る予定)

 Unicode 14で追加される仮名文字です。次の4文字です。

  • 1B11F;HIRAGANA LETTER ARCHAIC WU
  • 1B120;KATAKANA LETTER ARCHAIC YI
  • 1B121;KATAKANA LETTER ARCHAIC YE
  • 1B122;KATAKANA LETTER ARCHAIC WU

 明治期の五十音図でたまに見かけることのある文字ですが、そもそも日本語の歴史上、「ア行のイ (I)」対「ヤ行のイ (YI)」、そして「ア行のウ (U)」対「ワ行のウ (WU)」という区別はなかったとされていますので、字母(仮名の由来となった漢字)の選び方に学術的根拠はまったくありません。「五十音図の空いている欄を埋めたいがために、活字を適当に改造して作った仮名」というところではないでしょうか。
 上から順に「ほ」の一部を削ったもの、「イ」を引っ繰り返したもの、「イ」の下に横棒を付け加えて「イ+エ」の合字風にしたもの、漢字の「于」を流用したものという具合に、活字の作りやすさを優先したせいでこうなったんだろうなと思うような字が並んでいます。

 てっきりどこかの段階でISO/IEC 10646側の日本NB(IPSJ/ITSCJのSC2専門委員会が担当)がストップを掛けるものと予想していたのですが、気が付けばいつの間にかUnicode 14のアルファ版チャートに入ってしまっていました。
 Public Reviewの段階に至って異論が出てきましたが、Script Ad Hocグループはそれに対して、「日本NBは複数の専門家を見つけて、これらの符号化は妥当とするメールを送ってきている」などの理由から、UTCに何も変更する必要なしと進言、Unicode 14のベータ版チャートにも引き続き残ることになりました。

 すべて水面下でのやり取りであったため、日本NBの見つけた複数の専門家というのが誰であったのかは不明です。実在するのか、そもそも本当にそういうやり取りがあったのかも外部からはまったく分かりません。
 何にせよベータの段階まで来た文字はよっぽどのこと(ISO/IEC 10646の投票でどこかのNBが反対するなど)がない限り引っ込められることはありません。唯一意見を述べそうな日本NBが反対していないのだとしたら、この4字がUnicode 14に入ることは事実上確定したと見て間違いないでしょう。

 1B000..1B001が符号化された際の顛末を知る身としては「よく日本NBがこれにオーケーを出したな」というのが率直な感想です(グリフ名に "ARCHAIC" と付いている仮名文字はどうでも良いということなのかもしれませんが)。

 当サイトのフォントがこの4文字に対応することはありません。

番外編・小さい「こコ」

 小さい「こコ」はAdobe-Japan1に含まれている仮名文字で、写研の文字コードに由来するもののようです。2010年にAdobeがUnicodeへの追加申請を行い、翌年2011年2月のUTC会議にて受理されたものの、ISO/IEC 10646側で日本NBが反対に回ったため宙ぶらりんになってしまい、今に至っています。
 ひらがなのほうに対してはU+1B132、カタカナのほうに対してはU+1B155という文字コードが予約されていますが、符号化が完了する目処は立っていません。

 霧ゴシックと霧明朝とは、派生元の源ノ角ゴシック・源ノ明朝がこれらのグリフを持っていないため対応していません。自作も今のところ考えていません。
 一方錦明朝(および派生の錦源明朝)は当初よりAdobe-Japan1指向であった関係でこれらのグリフを持っていますが、Unicode値と紐付けされていないためテキストエディタやワープロソフトなどでは使用できません。CID番号を指定してグリフを表示するということが可能なソフトでしか使えない状態になっています。用途がよく分からないこともあり、将来的にはグリフを削除してしまうかもしれません。

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