2. 歴史的仮名遣いとヤ行のエ

歴史的仮名遣いとの関係

 今日一般に「歴史的仮名遣い」と呼ばれているものは、仮名の使い分け(仮名遣い)の規範を「平安時代における発音上の区別」に求めています。しかし実のところ、平安時代には発音し分けられていたと考えられているにもかかわらず、今日多くの古語辞典・国語辞典等が示している歴史的仮名遣いでは考慮されていない“対立”というものも存在します。具体的には次の3組がそれです。

 これは今の歴史的仮名遣いというものが、中世から近世にかけての日本語の音韻体系と、「いろは歌」に出てくる47文字の仮名とを掛け合わせたものに基づいていることに関係しています。そのため「か←→くゎ」は書き分けられるのに、「き←→く」や「け←→く」は書き分けられないなど、ちぐはぐなところが見られます(「き・く」「け・く」の混同は恐らく「い・ゐ」「え・ゑ」の混同と並行するものなので、その観点からも不整合)。

 ところが近年になり、漢和辞典の中には上二つ(キ/ギ←→ク/グ・ケ/ゲ←→ク/グ)の区別を織り込んだ「歴史的仮名遣い」を示すものが出てきました。『学研漢和大字典』や三省堂の『全訳漢辞海』などがそれです。
 こうなりますとあとは最後の一つ、「ア行のえとヤ行のエとの区別」を考慮した辞書・辞典が出てくれば、「平安時代にあったとされる音韻上の区別(除・上代特殊仮名遣いの痕跡)」をほぼすべて*1織り込んだ「真・歴史的仮名遣い」を行うことも可能となるのでしょうが、どうも今のところ、まだそのような辞書は存在しないようです。

 ただ和語における/e/←→/je/の区別に関しては、既に『古言衣延辨』著者の奥村榮實氏や、『古言衣延辨證補』著者の大矢透氏によって基本的な調査は終わっている上、『岩波古語辞典』のように「記号を使って/e/由来か/je/由来かを示している辞書」もあります。従いまして、後は誰かがそういうものを一覧表に纏め上げれば、和語における「え (e) ←→ エ (ye)」の書き分けを行う上での指標となるかもしれません。

 以下のページに置いてある表は、実際にその統合作業を行ってみた成果です。和語に関してはこのページに示されているものが、現時点で/e/←→/je/の区別が判明している語のすべてではないかと思われます。
 もしその後の研究の発展により、新たな/e/←→/je/の区別の確定例が存在するようでしたら、どうぞご連絡くださいませ。

 一方「漢字音(いわゆる音読み)」のほうは、どうも単純に先行研究を纏め上げるだけでは済みそうにありませんでしたので、当方で一から「字音における/e/←→/je/の別」を推定するところから始め、一覧表を編み上げてみました。以下がその一覧表および分類の際に基づいた考え方です。

 以上で示しました「え (e)・エ (je) 区分表」は、引用・参照・改良、すべてご自由にしてくださって結構です。

補註

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