2-2 京阪式アクセント

目次


2-2-1 アクセントとその分布

 方言を特徴づける要素にはいくつかありますが、「語彙」「アクセント」「用法(言い回し)」の3点は特に重要なものとしてあげられます。
 中でも京都言葉において、他地方の方にもっとも強い印象を与えるのが「アクセント」ではないでしょうか。

 日本語のアクセント体系には大きく分けて、「京阪式アクセント」「東京式アクセント」「特殊式アクセント」「一型(崩壊)アクセント」の4種類があります。
 このうち京都に分布するのは「京阪式アクセント」の一種で、その分布域はだいたい下図*1のようになっています。

図1 京阪式アクセント分布域図
京阪式アクセント分布域図
京阪式アクセントI:
もっとも保守的・伝統的。
空色 京阪式アクセントII:
アクセントの型区別が一部失われている。
水色 京阪式アクセントIII:
IIよりアクセントの型がさらに少ないものや、東京式アクセントに変化しかかっているもの。便宜上の総称なので実態はIやIIほど一様ではない。
萌葱 京阪式アクセントIV:
京阪式本流から枝分かれした時期が早かったため違いが著しいもの。讃岐式・真鍋島式等。

 この図から、

  1. 近畿地方といえども、奈良県南部や京都府北部〜兵庫県北部(北丹後〜北但馬)には京阪式アクセントが分布していない(東京式アクセントが分布している)
  2. 京阪式アクセントは、東方では北陸地方へ、西方では四国地方へ分布している(東海地方や中国地方には分布していない)。
  3. 近畿中央部より、高知・徳島・和歌山県田辺市付近等、かつて南海道と呼ばれた地域のほうが、より保守的な京阪式アクセントを保持している。

 ことなどが分かります。

 最後に、京阪式アクセント同士の比較表を載せておきますので、よろしければごらんください。


2-2-2 京阪式アクセントの体系

 東京式アクセントの場合、各単語のアクセントは、「その単語の中に音程の下がり目はあるか。あるとしたらそれは何拍目の後ろか」という要素だけで決まってしまいます(一元体系)が、京阪式アクセントでは、

  1. その単語の1拍目は高い音か低い音か。
  2. その単語の中に音程の下がり目(※)はあるか。あるとしたらそれは何拍目の後ろか。
    (※これをアクセントの核という)

 という2つの要素によって決まります(二元体系)。

 1拍目が高い音で始まる単語は、その単語の中に音程の下がり目があればその手前まで、なければ単語末までずっと1拍目の音の高さが保たれるのに対し、1拍目が低い音で始まる単語は、2拍目以降で音程が上がります。
 従って、高い音で始まる単語は、音程の下がり目の有無によって「高平調」か「下降調」かのどちらかになり、低い音で始まる単語は、音程の下がり目の有無によって「上昇調」か「起伏調」かのどちらかになります。
 これらを表にまとめると、下のようになります。

◆2拍名詞
音程の下がり目 京都アクセントの体系
(二元体系)
参考・東京アクセントの体系
(一元体系)
1拍目は高い 1拍目は低い 区別なし
ない ●●-●
かぜ-は(風は)
○●-●
うみ-は(海は)
○●-●
かぜ-は(風は)
単語の終わりにある ●▼-○
(該当語なし)
○▼-○
はるぅ-は(春は)
○●-○
つき-は(月は)
1拍目の後ろにある ●○-○
つき-は(月は)
発音不可 ●○-○
うみ-は
◆3拍名詞
音程の下がり目 京都アクセントの体系
(二元体系)
参考・東京アクセントの体系
(一元体系)
1拍目は高い 1拍目は低い 区別なし
ない ●●●-●
かたち-は(形は)
○●●-●
むかし-は(昔は)
○●●-●
かたち-は(形は)
単語の終わりにある ●●▼-○
(該当語なし)
○●▼-○
さっきぃ-は
○●●-○
あたま-は(頭は)
2拍目の後ろにある ●●○-○
ひとつ-は(一つは)
○●○-○
いちご-は(苺は)
○●○-○
いとこ-は
1拍目の後ろにある ●○○-○
たぬき-は(狸は)
発音不可 ●○○-○
たぬき-は(狸は)
◆4拍名詞
音程の下がり目 京都アクセントの体系
(二元体系)
1拍目は高い 1拍目は低い
ない ●●●●
はじまり(始まり)
○●●●
かかわり(関わり)
3拍目の後ろにある ●●●○
かんがえ(考え)
○●●○
いろがみ(色紙)
2拍目の後ろにある ●●○○
ひとびと(人々)
○●○○
ブランコ
1拍目の後ろにある ●○○○
うぐいす
発音不可

 京阪式であれ東京式であれ、1つの単語(または文節)の中では、一度上がった音程が後で下がることはあっても、その逆、いったん下がった音程が再び上がることはありません。
 つまり、○●○というアクセントで発音される言葉はあっても、●○●のようなアクセントを持つ語は存在し得ないわけです。

 また東京アクセントには、「1拍目と2拍目の音程は必ず異なる」という暗黙の決まりがありますが、京阪式アクセントにはそのような制限がありません。そのため京阪式アクセントには、東京式アクセントではあり得ぬ●●○や●●○○というタイプのアクセントも存在します。


参考・京阪式アクセント比較表

 例外的な発音をする動詞・形容詞は除きました。また、動詞・形容詞は連体形で比較してあります。

2拍語
アクセント記号の見方
○=低く発音  ●=高く発音  ▼=●から○へと音程を下げながら発音
例・「鯨/○●○」=[]  「命/●○○」=[のち]  「春/○▼」=[

大阪型京都型和歌山
田辺型
高知型
徳島型
近世京都型
(規範型)
(参考)
東京式

第1類
「風/水」類
●● ○●(-●)
第2類
「音/雪」類
●○ ○●(-○)
第3類
「花/月」類
第4類
「海/空」類
○●
昔ながらの
地域では
京都に同じ
○● ●○
第5類
「雨/露」類
○▼


1
5段
「言う/置く」類
●● ○●
1段・サ変
「寝る/する」類

2
5段
「書く/読む」類
○● ●○
1段・カ変
「見る/来る」類


「濃い」類 ●○ ●○
「良い」類 ○●

大阪型京都型和歌山
田辺型
高知型
徳島型
近世京都型
(規範型)
(参考)
東京式

3拍語
アクセント記号の見方
○=低く発音  ●=高く発音  ▼=●から○へと音程を下げながら発音
例・「鯨/○●○」=[]  「命/●○○」=[のち]  「春/○▼」=[

大阪型京都型徳島型和歌山
田辺型
高知型近世
京都型
(規範型)
(参考)
東京式

第1類
「氷/柳」類
●●● ○●●(-●)
第6類
「兎/烏」類
○○● ○●●
第7類
「苺/鯨」類
○●○
第2類
「小豆」類
●○○ ●●○ ○●●(-○)
第4類
「表/言葉」類
第3類
「鮑/山葵」類
●○○ ●○○
第5類
「朝日/命」類


1
5段
「上がる/歌う」類
●●● ●●● ○●●
1段
「上げる/染める」類

2
5段
「下がる/泳ぐ」類
●○○ ●○○ ○●○
1段
「下げる/起きる」類
○○●


第1類
「赤い/遅い」類
●○○ ●●○

●○○
●●○ ○●●
第2類
「白い/高い」類
●○○ ○●○

大阪型京都型徳島型和歌山
田辺型
高知型近世
京都型
(規範型)
(参考)
東京式

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