2-4 京都アクセントと東京アクセントとの関係

目次


2-4-1 京都アクセントの習得

 いざ京ことばを話そうとしても、単語のどこにアクセントを置けばいいのかわからない。これは方言を覚えようとする際、誰しもが必ずと言っていいほど突き当たる壁ではないでしょうか。

 前々章でも紹介したとおり、日本語のアクセント体系には「京阪式アクセント」「東京式アクセント」「特殊式アクセント」「一型(崩壊)アクセント」の4種があり、このうち京都と同系統の「京阪式アクセント」が分布する地域の方は、楽に京都アクセントを覚えられるでしょう。

 逆にもっとも苦労なさるのは、アクセントが崩壊してしまっている地域(山形南東部・宮城南部・福島・茨城・栃木各県全域・福井越前地域・福岡の筑前西部と筑後全域・熊本北東部・宮崎全域など)の方で、ついでアクセント区別が極端に減ってしまっている「特殊式アクセント」が分布する地域(鹿児島・熊本南西部・長崎など)の方でしょう。

 では「東京式アクセント」が分布する地域(茨城・栃木を除いた関東・甲信越・中部・福島・山形南東部・宮城南部を除いた東北・北海道・中国・九州の福岡豊前地域から宮崎にかけての地方)の方はどうでしょう。
 ちょっと考えただけでは、東京式アクセント分布地域の方も苦労しそうに思えますが、実は「ある法則」を用いることで、普段ご自身が用いてるアクセントから、ある程度までなら簡単に京都アクセントが導き出せます。

 以下、その「ある法則」について解説いたしましょう。

2-4-2 簡単なアクセントの相互変換法〜「一拍ずれ」の法則

 たとえば「水を飲む」「風が吹く」などの「水を」「風を」という言葉を、東京では[○●●]と発音しますが、京都ではまっすぐ平板に[●●●]と発音します(記号については基礎知識の項参照)。

 また同じように「雪が降る」「音が鳴る」などの「雪が」「音が」を、東京では○●○と発音しますが、京都では●○○と発音します。
 これらをまとめてゆくと、下表のようになります。

表1 京都・東京アクセントの対応関係
(2拍名詞に助詞「が」のついた形で比較)
京都東京
「水が・風が・顔が」等 ●●‐● ○●‐●
「雪が・山が・川が」等 ●○‐○ ○●‐○
「船が・海が・空が」等 ○○‐● ※ ●○‐○
「声が・春が・秋が」等○●‐○

 きれいに対応してますね。
 それにしてもこの対応関係はいったいどういう根拠によるものなのか、不思議に思われませんか。その秘密は、文単位で両アクセントを比較してみた時にハッキリ浮かび上がります。下をご覧ください。

表2 文単位でのアクセント比較
文  例 「冬が来る」
ふゆがくる
「腰が痛い」
こしがいたい
「花が咲く」
はながさく
京都のアクセント ●○○○● ●●●●○○ ●○○●●
東京のアクセント ○●○○○ ○●●●●○ ○●○○●

 もうお分かりですね。実は、京都のアクセントと東京のアクセントとでは、高い拍[●]が一拍ずれているだけなのです。

 もちろん、すべての単語や文節がこの法則だけで説明できるわけではありませんが、この法則は東京の方が京都のアクセントを習得したり、近畿の方が共通語のアクセントを習得する際には大いに役立ちますので是非覚えておいてください。


2-4-3 京阪式アクセントと東京式アクセントの関係

 では最後に、「なぜ京阪式アクセントと東京式アクセントとの間にこのような対応関係があるのか」について触れておきましょう。

 京阪式アクセントと東京式アクセントとの対立関係がいつ・どのようにして生まれたのかについては、古くから様々な説がありましたが、現代の国語学においては金田一春彦氏の「日本各地のアクセントはすべて平安時代の京都アクセントにルーツをたどれる」という説*1がほぼ定説となっているようです。
 そしてこの説によりますと、「東京式アクセントは中世前期頃、当時の京都アクセントから派生したもの」とされています。

 つまり前述の対応関係(一拍ずれ)というのは、この“中世前期に起こった派生”の痕跡を利用しているのです。そのため近代以降生まれた新しい言葉や外来語には、この対応関係は働いていません。
 しかし日本古来からある言葉なら今でもかなり対応関係が生きているため、ある程度までなら簡単に東京式→京阪式へのアクセント変換ができるというわけです。


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