〜動詞には「ます」 形容詞には「おす」 名詞には「どす/です」〜
日本でもっとも華やかな丁寧語といわれた「どすおす」言葉も最近ではどこへやら。今や京都でもほとんどの人が共通語同様「ですます」言葉を話します。
中でも昭和40年代以降生まれたいわゆる“テレビ世代”は、普段は京都のアクセントでしゃべってるのに「ですます」言葉になると途端にアクセントまで共通語のものに切り替えてしゃべる人すらいるぐらいです(かくいう昔の私も)。
しかしそんな現実はひとまず置いといて、この章では主に京都本来の丁寧語表現を紹介してまいります。
これは共通語にも取り入れられた表現ですので、改めて説明する必要はありませんね。ただし活用に違いがあります。
「ます」の否定形「ません」の「ん」は、「書かん」とか「読まん」の「ん」と同じものであるため、京都では一般動詞と同じようにこの「ません」を活用させることができます。
| 例語 | 「ある」 | 「する」 |
|---|---|---|
| 終止・連体 | あります | します |
| 過去 | ありました | しました |
| 連用 | ありまして | しまして |
| 意向・推量 | ありましょう | しましょう |
| 否定 | ありません | しません |
| 否定過去 | ありませなんだ (ありませんかった) |
しませなんだ (しませんかった) |
| 否定連用 | ありませず ありませいで ありませんと |
しませず しませいで しませんと |
ともに形容詞の連用形につけて、形容詞を丁寧な言い方にします。
意味・用法はまったく同じですが、「ございます」のほうがより丁寧です。
「ございます」は、「ござい」+上記の助動詞「ます」ですので、活用の仕方も「ます」と同じです。
「おす」の活用は以下の通りです。
| 終止・連体 | おす | ●● |
|---|---|---|
| 過去 | おした | ●○○ |
| 連用 | おして | ●○○ |
| 推量 | おすやろ *1 | ●●●○ |
| 否定 | おへん *2 | ●●● |
| 否定過去 | おへなんだ | ●●○○○ |
| 否定連用 | おへんと おへいで |
●●○○ |
東京ではよっぽど改まった場でもない限りあまり「ございます」という言葉を使いませんが、京都では割とよく使われます。
しかし今では、共通語の「広いです」「高いです」式の言い方に押されて、この「広おす」「高ございます」式の言い方をなさる方にはなかなかお目にかかれません。こちらのほうが文法には適っているだけに残念なことです。
共通語の「です」にあたる言葉で、意味も使いどころともほぼ同じですが、唯一「どす」は形容詞にはつかない、という違いがあります。
共通語では「青いです」「高いです」という言い方が普通にされますが、京ことばでは「青いどす」「高いどす」とは言いません。
こういう場合は前述の「おす」を用いて「青おす(あおおす<あおうおす)」「高おす(たこおす<たこうおす)」と言います。
「どす」は、「何々でおす」が約まったものといわれ、以下のように活用します。
| 終止・連体 | どす | ●● |
|---|---|---|
| 過去 | どした | ●○○ |
| 連用 | どして | ●○○ |
| 推量 | どすやろ * | ●●●○ |
「どす」は、他府県の方がもっとも京都的だと感じる言葉ではないでしょうか。
しかし実際には、この「どす」がもっとも広く使われた時代においても、公家や武家等が多く住む(住んでいた)地域では、「でござります(ございますではない)」や「であらっしゃる」等が好んで使われ、「どす」はほとんど使用されなかったといいます。
この「です」は共通語によってもたらされた言い方と考えられていて、普通「京ことば」とは見なされませんが、今日では先の「どす」に代わって京の街に広く浸透しています。
「です」の活用は以下の通りです。
| 終止・連体 | です | ●● |
|---|---|---|
| 過去 | でした | ●○○ |
| 連用 | でして | ●○○ |
| 推量 | ですやろ * でしょう |
●●●○ ●●● |
ご覧の通り、基本的には「どす」の「ど」を「で」に置き換えただけです。
共通語と比較してみても、推量形に「ですやろ・でっしゃろ」があることを除けば大差ありません。もっとも最近ではこの「ですやろ・でっしゃろ」の代わりに共通語の「でしょう」をそのまま使う方が増えています。
なお上表には入れませんでしたが、「でしょう」は[○○○]というアクセントで発音されることもよくあります。この理由については、アクセントの部で紹介します。
他人にものを頼むときや、逆に他人からの申し出を断る時、京都では婉曲な表現を用いて、こちらの言わんとしてることを相手に察してもらうようにします。
たとえば「手伝いましょか?」と申し出られたものの断りたい場合、ハッキリ「結構です」とは言わず、「へぇおーきに。けどまぁ一人でも何とかなりまっさかい」とまで言ったところで文を止めます。この後に「お断りしときまっさ」という言葉が続くことは、言った方も言われた方も京都人同士ならわかるわけです。
また京阪地方で頼まれごとを断る際の常套句として「考えときます」という言い方がありますが、これも婉曲表現の一種と見なしていいでしょう。
このように京都の婉曲表現には事情を知らぬ人が聞くと「だから結論は何なの?」と思えるものが多く、他の地方の人には煩わしく感じられるかもしれません。
しかしこの手の婉曲表現は、粗野な物言いによって相手の気分を害することをできるだけ避けたいという、京都人なりの気遣いの現れでもあるのです。