動詞の活用パターンには、5段活用・1段活用・カ行変格活用・サ行変格活用の4種類があります。
西日本方言によく見られるナ行変格活用(「死ぬ」を「死ぬる」という類い)は、現代の洛中においてはまず聞かれません。
活用の仕方そのものは、共通語とほぼ同じです。ただ唯一、5段動詞のうち語尾が「う」で終わるものだけは、「た」「て」の前で連用形にウ音便が現れ、共通語と異なります。
| 活用形 | カ行 「書く」 |
ガ行 「嗅ぐ」 |
サ行 「貸す」 |
タ行 「勝つ」 |
ナ行 「死ぬ」 |
バ行 「飛ぶ」 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 終止・連体 | かく | かぐ | かす | かつ | しぬ | とぶ |
| 連用 | かき | かぎ | かし | かち | しに | とび |
| かいて | かいで | かして | かって | しんで | とんで | |
| 過去・完了 | かいた | かいだ | かした | かった | しんだ | とんだ |
| 仮定 | かいたら | かいだら | かしたら | かったら | しんだら | とんだら |
| かけば *1 かきゃ |
かげば *1 かぎゃ |
かせば *1 かしゃ |
かてば *1 かちゃ |
しねば *1 しにゃ |
とべば *1 とびゃ |
|
| 命令 | かけ | かげ | かせ | かて | しね | とべ |
| 意向 | かこう かこ |
かごう かご |
かそう かそ |
かとう かと |
しのう しの |
とぼう とぼ |
| 使役 | かかせる かかす |
かがせる かがす |
かさせる かさす |
かたせる かたす |
しなせる しなす |
とばせる とばす |
| 受動 | かかれる | かがれる | かされる | かたれる | しなれる | とばれる |
| 可能 | かける | かげる | かせる | かてる | しねる | とべる |
| 否定 *2 | かかん | かがん | かさん | かたん | しなん | とばん |
| かかへん | かがへん | かさへん | かたへん | しなへん | とばへん |
| 活用形 | マ行 「噛む」 |
ラ行 「借る」 |
アワ行 「買う」 |
カ行例外 「行く」 |
特殊ラ行 「なさる」 |
|
|---|---|---|---|---|---|---|
| 終止・連体 | かむ | かる | かう | ゆく | いく | なさる |
| 連用 | かみ | かり | かい | ゆき | いき | なさり |
| かんで | かって | こうて | (該当無し) | いって | なさって | |
| 過去・完了 | かんだ | かった | こうた | (該当無し) | いった | なさった |
| 仮定 | かんだら | かったら | こうたら | (該当無し) | いったら | なさったら |
| かめば *1 かみゃ |
かれば *1 かりゃ |
かえば *1 かや |
ゆけば *1 ゆきゃ |
いけば *1 いきゃ |
なされば *1 なさりゃ |
|
| 命令 | かめ | かれ | かえ | ゆけ | いけ | なさい |
| 意向 | かもう かも |
かろう かろ |
かおう かお |
ゆこう ゆこ |
いこう いこ |
なさろう なさろ |
| 使役 | かませる かます |
からせる からす |
かわせる かわす |
ゆかせる ゆかす |
いかせる いかす |
なさらせる なさらす |
| 受動 | かまれる | かられる | かわれる | ゆかれる | いかれる | なさられる |
| 可能 | かめる | かれる | かえる | ゆける | いける | なされる |
| 否定 *2 | かまん | からん | かわん | ゆかん | いかん | なさらん |
| かまへん | からへん | かわへん | ゆかへん | いかへん | なさらへん | |
このウ音便は、形容詞の場合と同じく、直前の語幹母音を以下のように変化させます。
| 直前の母音 | 変化の仕方 | 例 |
|---|---|---|
| 直前の母音が[a]の場合 | [a-u]→[o:] | 買う(かう)→買うた(こうた) |
| 直前の母音が[i]の場合 | [i-u]→[ju:] | 言う(いう)→言うた(ゆうた) |
| 直前の母音が[u]の場合 | [u-u]→[u:] | 食う(くう)→食うた(くうた) |
| 直前の母音が[e]の場合 | [e-u]→[jo:] | (現代語にはなし) |
| 直前の母音が[o]の場合 | [o-u]→[o:] | 追う(おう)→追うた(おうた) |
共通語では「ろ」となる命令形の語尾が、京都言葉では「い」または「よ」となることを除けば、活用の仕方そのものは共通語と同じです。
もっともこれも最近では、共通語風に「起きろ」のような「ろ」型の命令形を使う人が増えてはいますが、京都本来の言い方ではありません。
| 活用形 | 上1段の例 「起きる」 |
下1段の例 「寝る」 |
|---|---|---|
| 終止・連体 | おきる | ねる |
| 連用 | おき | ね |
| おきて | ねて | |
| 過去・完了 | おきた | ねた |
| 仮定 | おきたら | ねたら |
| おきれば *1 ・おきりゃ | ねれば *1 ・ねりゃ | |
| 命令 | おきい・おきよ *2 | ねい・ねよ *2 |
| 意向 | おきよう・おきよ | ねよう・ねよ |
| 使役 | おきさせる・おきさす | ねさせる・ねさす |
| 受動 | おきられる | ねられる |
| 可能 | おきられる・おきれる | ねられる・ねれる |
| 否定 *3 | おきん | ねん |
| おきひん | ねぇへん・ねやへん |
カ変とサ変とがあります。サ変は共通語とはだいぶ異なる活用変化をします。
| 活用形 | カ行変格活用 「来る」 |
サ行変格活用 「する」 |
|---|---|---|
| 終止・連体 | くる | する |
| 連用 | き | し |
| きて | して | |
| 過去・完了 | きた | した |
| 仮定 | きたら | したら |
| くれば *1 ・くりゃ | すれば *1 ・すりゃ | |
| 命令 | こい | せい |
| 意向 | こう・こ | しょう・しょ |
| 使役 | こさせる・こさす | させる・さす |
| 受動 | こられる | される・しられる・せられる |
| 可能 | こられる・これる | (該当無し) |
| 禁止 | くるな・くんな・くな *2 | するな・すんな・すな *2 |
| 否定 *3 | こん | せん |
| きぃひん・きやへん | しぃひん・しやへん・せぇへん |
連用形は通常、発音癖によって2拍相当に引き延ばされ、それぞれ「きぃ」「しぃ」と発音されます。
カ変とサ変とでもっとも注意すべきは意向形です。共通語ではそれぞれ、
と言いますが、京都では、
と言います。
従って共通語の「行ってこよう」「見てこよう」などの表現も、京都では「行ってこう」「見てこう」などとなり、「どうしよう」「そうしよう」なども、京都では「どうしょう」「そうしょう」などとなります。
また、サ変の命令形が「しろ」ではなく、「せい」であるのも共通語と違う点です。
ちなみに、カ変の否定形「きぃひん」は、大阪の「けぇへん」、神戸の「こーへん」と対立することで有名で、関西人同士で互いの出身地を言い当てるのによく使われます。
京都言葉の動詞全般に共通する特徴を、「読む」という動詞を例に解説します。
京都では連用形が独自の発達を遂げていて、「読みなさい」の意味で「読み/○●」という言い方が用いられたり、「読みなさんな/○●●○○○」という禁止の意味で「読みな/○●○」という言い方が用いられたりします。
共通語と同じ「読め/○▼」という命令形や、「読むな/○●○」という禁止形もあることはありますが、ともに京都人の感覚としては強すぎる表現であるため、しばしば相手に高圧的な印象を与えます。
| 普通の言い方 | 強い言い方 | |||
|---|---|---|---|---|
| 命令 | 読み | ○● | 読むな | ○●○ |
| 禁止 | 読みな | ○●○ | 読め | ○▼ |
また共通語の「読みなさいよ」に当たる「念押し表現」として、助詞「な」「や」を付けた「読み‐な/○●‐●」「読み‐や/○●‐●」という言い方があります。この「読みな」と禁止の「読みな」とは、字で書くと同じですが、アクセントで区別されます。
| 「読みなさんな」の意味 | 読み‐な | ○●‐○ |
|---|---|---|
| 「読みなさい」+「な」 | 読み‐な | ○●‐● |
さらに強く念押しする表現として、連用形に助詞「いな」を付けた「読み‐いな/○●‐○○」という言い方があります。
この「いな/○○」は、連用禁止形にも付けることができ、「読みな‐いな/○●○‐○○」というふうに用いられたりもします。
| 希 求 |
連用形による希求 | 読み (読みなさい) |
○● |
|---|---|---|---|
| 上の念押し表現 | 読み‐な (読みなさいよ) |
○●‐● | |
| さらに強い念押し表現 | 読み‐いな (読みなさいってば) |
○●‐○○ | |
| 禁 止 |
連用形による禁止 | 読み‐な (読みなさんな) |
○●‐○ |
| 上の強い念押し表現 | 読み‐な‐いな (読みなさんなってば) |
○●‐○‐○○ |
この助詞「いな」は、「読んで‐いな/○●●‐○○」というふうに、「〜して」という形にも付けることもできます。これは、連用形に直接付けた「読み‐いな」という言い方に比べて、相手にお願いするような、すがるような気持ちが強い言い方です。
女性専用の希求・勧誘表現として、「書きよし /○●○○」「しぃよし /●●○○」という言い方があります。この「よし」というのは、「する」の連用形「し」に接頭語の「お」のついた「おし」が転じたものであるといいます。
ただしこの表現、あくまで「丁寧」なだけで、「敬意」はまったく含まれていませんので、目上の人には使えません。
この言い方は歴史が浅い(発生は昭和初頭頃らしい)こともあって、普通京ことばとは見なされません。
京都には否定を表す助動詞として「ん」と「へん」の2つがあります。
「ん」というのは日本古来からある「ぬ」が訛ったもので、「へん」というのは「読みはせん→読みゃせん→読ません→読まへん」という変遷の結果生まれたものです。
このように助動詞「へん」の「ん」は助動詞「ん(ぬ)」そのものですので、当然のことながら「ん」と「へん」は似たような活用変化をします。
| 京言葉 | (参考) 東京言葉 |
||
|---|---|---|---|
| 「ぬ(ん)」 | 「へん」 | 「ない」 | |
| 活用の仕方 |
変則型 (上代は四段活用か) |
左に準ず |
形容詞型 (元々は無活用語) |
| 基本形 | 読まん | 読まへん | 読まない |
| 中止形 |
読まず 読まいで *1 読まんと *2 |
読まへいで*1 | 読まなく(て) |
| 「〜と」 | 読まんと (上の「読まんと」とは別語) |
読まへんと | 読まないと |
| 過去(完了)形 *3 | 読まなんだ | 読まへなんだ | 読まなかった |
| 推量形 | 読まんやろう | 読まへんやろう | 読まないだろう |
| 仮定形「たら」 | 読まなんだら | 読まへなんだら | 読まなかったら |
| 仮定形「ば」 *4 |
読まねば 読まにゃ 読まな |
(まず使われない) | 読まなければ |
| 連用+「なる/する」 | 読まんようになる | 読まへんようになる | 読まなくなる |
| 「〜しすぎる」の否定 |
読まずすぎる *5 読まんすぎる *6 |
(まず使われない) | 読まな(さ)すぎる |
| 「〜しそうな」の否定 |
読めそうにない 読めそうもない 読めんそうな *7 |
(まず使われない) |
読めそうにない 読めそうもない 読めな(さ)そうな |
| 否定の意向 | 読まんとこ(う) | (まず使われない) | 読まないでおこう |
| 名詞化 | 不可 | 読まなさ | |
| 転成名詞化 | 読まず *8 | (まず使われない) | 不可 |
活用の仕方こそ似ていれど、「ん」と「へん」はまったく同じように使えるわけではありません。用法や動詞との接続の仕方に若干違いがあります。
用法(使われ方)の違いとしては、以下のようなことがあげられます。
「ある」の否定形は普通「あらへん」で、「あらん」とは言わない。
動詞によっては、明らかに「へん」より「ん」を好むものがある。
例:「知らん」「わからん」「かな(わ)ん」「あかん」等
「よう〜せん」という言い方(後述)では、「ん」が普通。
例:「よう言わん」「よう見ん」「よう書かん」等
「〜かもしれん」という言い方では、「ん」が普通。
例:「そうかもしれん」「言うかもしれん」等
ただしこれらの区別も京都周辺部ではあまり徹底されていないようで、京都市街を出ると「そうかもしれへん」とか「あかへん」というような言い方がされることもあります。
一方、動詞との接続の仕方においても「ん」と「へん」は異なります。
常に動詞の未然形に接続する「ん」に対して、「へん」は以下のような接続規則を持っています。
「へん」は、5段活用(旧ナ変・ラ変も含)する動詞には未然形に付くが、その他の活用(1段・カ変・サ変)をする動詞には連用形に付く。
5段活用動詞に付く例:「書く・読む」 → 「書か-へん・読ま-へん」
1段活用動詞に付く例:「上げる・下げる」 → 「上げ-へん・下げ-へん」
「へん」の直前の音節が「いの段」である時(つまり動詞の語幹が母音[i]で終わる時)、「へん」は「ひん」に変化する。
従って、「起きへん」ではなく「起きひん」、「落ちへん」ではなく「落ちひん」と言う。
「見る」「いる」「出る」など、連用形が1拍しかない動詞に付くときには、連用形を引き延ばして「みぃひん」「いぃひん」「でぇへん」と言うか、もしくは「へん・ひん」の代わりに「やへん」を付けて、「みやへん」「いやへん」「でやへん」と言う。
(これらはともに「見はせん→見やせん→見やへん→見ぃへん→見ぃひん」という変遷の名残)
「する」に付くときだけは特別に、上にあげた規則通りの「しぃひん」「しやへん」という言い方の他に、「せぇへん」という言い方も用いられる。
残念なことに最近では、この平安朝来続いてきた「ん(ぬ)」による否定文を捨て、東京風に「見ない」「言わない」と、「ない」を使う人が増えてるのも事実です。
ただおかしなもので、この傾向は20代30代より、50代60代辺りの方のほうが顕著な気がします。もしかすると戦前の標準語教育が影響してるのかもしれません。
京ことばには他の西日本方言同様、不可能を表す表現として「読めん・書けん・見られん」のような「動詞の可能形の否定」によるものと、「よう読まん・よう書かん・よう見ん」のような「副詞『よう』+動詞の否定」によるものとの2種類の言い方があります。
これらは互いに意味が少し異なるので、どちらを使ってもいいというわけではありません。
たとえば、「読めん・読めへん」といえば「電気が暗うて読めへん」とか「眼鏡があらへんし読めへん」というように「状況による不可能」を表しますが、「よう読まん」といえば、「こんな難しい字、よう読まん」というように、「能力的不可能」や「そういう気になれない」という意味での「不可能」をあらわします。
「そんなことよう言わんわ」 …… 言う気になれない、という意味。
「そんなこと言えへんわ」 …… そんなこと言えるような状況じゃない、と言う意味。
なお、この二つの表現がごっちゃになった「よう読めん」「ようできん」というような言い方が聞かれることもありますが、これは誤用です。
動詞も形容詞同様、仮定表現は「読んだら」など「たら」形が好まれ、「読めば」など「れば」形は堅苦しい表現として避けられます。
また推測は助動詞「やろう」をつけて「読むやろう」と言うのが普通で、「読もう」は意向を表す場合にのみ使われます。これは助動詞「ます」がついた場合も同じです。