1-5. 動詞

目次


1-5-1 動詞の活用形

 現代の京都言葉で使われる動詞の活用パターンには、5段活用・1段活用・カ行変格活用・サ行変格活用の4種類があります。これらの簡単な見分け方は次の通りです。

 西日本方言によく見られるナ行変格活用(「死ぬ」を「死ぬる」というたぐい)は、現代の京都市近郊ではまず聞かれません。

1-5-1-1 5段活用

 活用の仕方そのものは共通語とほぼ同じです。ただ唯一、5段動詞のうち語尾が「う」で終わるものだけは、「た」「て」の前で連用形にウ音便が現れ、共通語と異なります。

表1 5段活用の例その1(カ行~バ行)
活用形 カ行
「書く」
ガ行
「嗅ぐ」
サ行
「貸す」
タ行
「勝つ」
ナ行
「死ぬ」
バ行
「飛ぶ」
終止・連体 かく かぐ かす かつ しぬ とぶ
連用 かき かぎ かし かち しに とび
かいて かいで かして かって しんで とんで
過去・完了 かいた かいだ かした かった しんだ とんだ
仮定 かいたら かいだら かしたら かったら しんだら とんだら
かけば *1
かきゃ
かげば *1
かぎゃ
かせば *1
かしゃ
かてば *1
かちゃ
しねば *1
しにゃ
とべば *1
とびゃ
命令 かけ かげ かせ かて しね とべ
意向 かこう
かこ
かごう
かご
かそう
かそ
かとう
かと
しのう
しの
とぼう
とぼ
使役 かかせる
かかす
かがせる
かがす
かさせる
かさす
かたせる
かたす
しなせる
しなす
とばせる
とばす
受動 かかれる かがれる かされる かたれる しなれる とばれる
可能 かける かげる かせる かてる しねる とべる
否定 *2 かかん かがん かさん かたん しなん とばん
かかへん かがへん かさへん かたへん しなへん とばへん
表2 5段活用の例その2(マ行~特殊ラ行)
活用形 マ行
「噛む」
ラ行
「借る」
アワ行
「買う」
カ行例外
「行く」
特殊ラ行
「なさる」*1
終止・連体 かむ かる かう ゆく いく なさる
連用 かみ かり かい ゆき いき なさり
なさい
かんで かって こう (該当無し) いって なさって
過去・完了 かんだ かった こう (該当無し) いった なさった
仮定 かんだら かったら こうたら (該当無し) いったら なさったら
かめば *2
かみゃ
かれば *2
かりゃ
かえば *2
かや
ゆけば *2
ゆきゃ
いけば *2
いきゃ
なされば *2
なさりゃ
命令 かめ かれ かえ ゆけ いけ なさい *3
意向 かもう
かも
かろう
かろ
かおう
かお
ゆこう
ゆこ
いこう
いこ
なさろう
なさろ
使役 かませる
かます
からせる
からす
かわせる
かわす
ゆかせる
ゆかす
いかせる
いかす
なさらせる
なさらす
受動 かまれる かられる かわれる ゆかれる いかれる なさられる
可能 かめる かれる かえる ゆける いける なされる
否定 *4 かまん からん かわん ゆかん いかん なさらん
かまへん からへん かわへん ゆかへん いかへん なさらへん

 共通語では「買て・買た・買たら」と言うところを、京都言葉では表2にあるように「買て・買たら・買たら」と言います。このように「て・た」の前で、動詞の連用形語尾に「う」が現れる現象のことをウ音便と呼びます。
 ウ音便は西日本語に広く見られる現象です。「言う・買う」など「う」で終わる動詞の語尾が、「て・た」の前で「っ」になるか「う」になるかは、東日本方言と西日本方言とを分類する基準の1つとしても使われます。

 形容詞の場合と同じく、ウ音便は直前の母音を巻き込んで、次のような発音の変化を引き起こします

表3 動詞のウ音便
「‐うて」「‐うた」の
直前の音
変化の仕方
アの段の音+ウ音便 アウ→オー / [au]→[o:] 買うた(カウた → コーた)
イの段の音+ウ音便 イウ→ユー / [iu]→[ju:] 言うた(イウた → ユーた)
ウの段の音+ウ音便 ウウ→ウー / [uu]→[u:] 食うた(クウた → クーた)
エの段の音+ウ音便 エウ→ヨー / [eu]→[jo:] (現代語にはなし)
オの段の音+ウ音便 オウ→オー / [ou]→[o:] 追うた(オウた → オーた)

「違う」「払う」など3拍動詞のウ音便形は、しばしばウ音便の部分に短縮化が起こって「チコ゚タ」「ハロタ」のように発音されます(母音短縮)。

1-5-1-2 1段活用

 共通語では「ろ」となる命令形の語尾が、京ことばでは「い」になることを除けば、活用の仕方そのものは共通語と同じです。

表4 1段活用の例
活用形 上1段の例
「起きる」
下1段の例
「寝る」
終止・連体 おきる ねる
連用 おき
おきて ねて
過去・完了 おきた ねた
仮定 おきたら ねたら
おきれば *1 ・おきりゃ ねれば *1 ・ねりゃ
命令 おきい *2 ねい *2
意向 おきよう・おきよ ねよう・ねよ
使役 おきさせる・おきさす ねさせる・ねさす
受動 おきられる ねられる
可能 おきられる・おきれる ねられる・ねれる
否定 *3 おきん ねん
おきひん ねえへん・ねやへん

 上の「寝る」のように連用形が1拍しかない場合は、発音癖によって「ねえ」と2拍相当に引き延ばして発音されます

1-5-1-3 変格活用

 カ変とサ変とがあります。サ変は共通語とはだいぶ異なる活用変化をします。

表5 カ行変格活用とサ行変格活用
活用形 カ行変格活用
「来る」
サ行変格活用
「する」
終止・連体 くる する
連用
きて して
過去・完了 きた した
仮定 きたら したら
くれば *1 ・くりゃ すれば *1 ・すりゃ
命令 こい せい
意向 こう・こ しょう・しょ
使役 こさせる・こさす させる・さす
受動 こられる される・しられる
可能 こられる・これる (該当無し)
禁止 くるな・くんな・くな *2 するな・すんな・すな *2
否定 *3 こん せん
きいひん・きやへん しいひん・しやへん・せえへん

 連用形は通常、発音癖によって2拍相当に引き延ばされ、それぞれ「きい」「しい」と発音されます。

 カ変とサ変とでもっとも注意すべきは意向形です。共通語ではそれぞれ、

 と言いますが、京都では、

 と言います。従って共通語の「行ってこよう」「見てこよう」などの表現も、京都では「行ってこう」「見てこう」となり、「どうしよう」「そうしよう」なども京都では「どうしょう」「そうしょう」となります。
 これは助動詞「う」と「よう」との棲み分けが、京都語と東京語とでは異なっているとも言い表せます(表6)。

表6 助動詞「う」と「よう」の使い分け
京都語東京語
「う」五段動詞(書か+う→書こう)
カ変動詞(こ+う→こう)
サ変動詞(せ+う→しょう)
五段動詞(書か+う→書こう)
「よう」一段動詞(寝+よう→寝よう)一段動詞(寝+よう→寝よう)
カ変動詞(こ+よう→こよう)
サ変動詞(し+よう→しよう)

 さらには、サ変の命令形が「しろ」ではなく「せい」であるのも共通語と違う点です。

 ちなみにカ変の否定形「きいひん」は、大阪の「けえへん」、神戸の「こおへん」と対立することで有名で、互いの出身地を言い当てるのによく使われます。

~シテコー

 前述の「~してこう」という言い方は、馴染みのない方には「~して行こう」の省略形に聞こえるかもしれません。京都語では「~して行こう」の省略形は、「~して行こ(長母音コーの短縮)」「~してこ(イ脱落+コー短縮)」という形になることが多く、「~して行こう」の意味で「~してこう」と言うことはあまり多くありません。

 もっとも「来う/○●」と「行こう/●●●」とはアクセントが異なるため、仮に「~して行こう」を「シテコー/●●●●」と発音しても、「~して来う」の意味の「シテコー/●●○○」とはアクセントで区別できます。
 たとえば「食べてこう/○○●○○」なら「食べて来よう」の意味ですが、「食べてこう/○○○●●」なら「食べて行こう」という意味です。


1-5-2 動詞の使われ方

 京都言葉の動詞全般に共通する特徴を、「読む」という動詞を例に解説します。

1-5-2-1 多様な連用形

 京都では連用形が独自の発達を遂げていて、「読みなさい」の意味で「読み/○●」という言い方が用いられます。この時、「寝る」や「見る」のように連用形が1拍しかない動詞については、「寝え/●●」「見い/●●」と2拍相当に引き延ばして発音されます。
 共通語と同じ「読め/○◐」「読めよ/○●○」という命令形もあることにはありますが、京都人の感覚としては強すぎる表現であるため、この形の使用はしばしば相手に高圧的な印象を与えます。

 また共通語の「読みなさいよ」に当たる「念押し表現」として、助詞「や」を付けた「読み‐や/○○‐●」という言い方があります。この「や」を付ける時も、連用形が1拍しかない動詞については「寝えや/●●●」「見いや/●●●」のように、動詞連用形部分が2拍相当に引き延ばして発音されます(「寝や」「見や」とは言わない)。

 さらに強く念押しする表現として、動詞連用形に助詞「いな」を付けた「読み‐いな/○●‐○○」という言い方もあります。
 この助詞「いな」は、「読んで‐いな/○○●‐○○(ヨンデーナと発音)」というふうに、「~して」という形(動詞のテ形)にも付けることもできます。これは、連用形に直接付けた「読み‐いな」という言い方に比べて、相手にお願いするような、すがるような気持ちが強い言い方です(表7)。

表7 色々な連用形の用法とその意味
「読み/○●」「読みなさい」という意味。
「読み‐や/○○‐●」「読みなさいよ」という意味。
「読み‐いな/○●‐○○」「読みなさいったら」と、強く推すニュアンスが加わる。
「読んで‐いな/○○●‐○○」「読んでくれってば」「読んで頂戴ったら」と、相手にお願いする気持ちが強く表れている言い方。

 下の世代の話者からは「見いや/●○○」「読みいや/○●○○」のように、前述の「や」と「いな」とを混ぜたような言い方が聞かれることもありますが、これは誤用の一種です。

生粋の京ことばとは言い難い表現

 女性専用の希求・勧誘表現として、「書きよし /○●○○」「しいよし /●●○○」という言い方があります。この「~よし」というのは、「する」の連用形「し」に丁寧を表す接頭語「お」のついた「おし」が転じたものであるといいます。
 ただしこの表現はあくまで丁寧なだけで、敬意はまったく含まれていませんので目上の人には使えません。

 この言い方は歴史が浅い(発生は昭和初頭頃か)こともあって、伝統方言と呼べるかどうかは微妙なところです。

1-5-2-2 否定形~「へん/ひん」と「ん(ぬ)」

 京都には否定を表す助動詞として「ん」と「へん」の2つがあります。このうち「ん」というのは、日本古来からある「ぬ」が変化したものです。そして「へん」というのは、「読みはせん→読みやせん→読みゃあせん→読ません→読まへん」という変遷の結果、生まれたものです。
 つまり助動詞「へん」の「ん」は助動詞「ん(ぬ)」そのものですので、「ん」と「へん」とは似たような活用変化をします。

表8 「ん」と「へん」の活用変化
京都言葉 (参考)
東京言葉
「ん」 「へん」 「ない」
活用の仕方 変則
(上代は四段活用か)
左に準ず 形容詞型
(江戸後期までは活用せず)
基本形 読ま 読まへん 読まない
推量形 読まんやろう 読まへんやろう 読まないだろう
中止・連用形 読まいで(~も)
読まんで(~も)
読まんと *1(~おく)
読まへいで(~も)
読まへんで(~も)
読まなくて(~も)
読まないで(~おく)
「~と」 読まんと
(上の「読まんと」とは別語)
読まへんと 読まないと
過去(完了)形 *2 読まなんだ 読まへなんだ *3 読まなかった
仮定形「たら」 読まなんだら 読まへなんだら *3 読まなかったら
仮定形「ば」 読まねば
読まにゃ(上の訛り)
読ま(さらに訛ったもの)
(まず使われない) 読まなければ
連用+「なる/する」 読まんようになる 読まへんようになる 読まなくなる
「~しすぎる」の否定 *4 (まず使われない) 読まな(さ)すぎる
「~しそうな」の否定 読めそうにない
読めそうもない
(まず使われない) 読めそうにない
読めそうもない
読めな(さ)そうな
否定の意向 読まんとおこ(う) *5 (まず使われない) 読まないでおこう
「さ」による名詞化 不可 読まなさ
転成名詞化 読ま *6 (まず使われない) 不可

 現代京都の口語としては「~ば」という仮定形がやや堅く感じられるというのは否定の場合も同じで、否定の仮定は「~なんだら」という形によって示されることがほとんどです。ただし「せなならん」のように後ろに「~ならん」が続く場合に限っては、「~ねば(にゃ・な)」系の言い方のほうが普通です。

 活用の仕方こそ似ていれど、「ん」と「へん」はまったく同じように使えるわけではありません。用法や動詞との接続の仕方に若干違いがあります。

 用法(使われ方)の違いとしては、次のようなことがあげられます。

「ん」と「へん」の使い分け

  • 「ある」の否定形は普通「あらへん」で、「あらん」とは言わない。
  • 動詞によっては「へん」より「ん」を好むものがある。 例:「知らん」「わからん」「かな(わ)ん」「あかん」等。
  • 「よう~せん」という言い方(後述)では「ん」が普通。 例:「よう言わん」「よう見ん」「よう書かん」等。
  • 「~かもしれん」という言い方では「ん」が普通。 例:「そうかもしれん」「言うかもしれん」等。

 一方、動詞との接続の仕方においても「ん」と「へん」は異なります。常に動詞の未然形に接続する「ん」に対して、「へん」は次のような接続規則を持っています。

「ん」と「へん」の接続の仕方

  • 「へん」は、5段活用(旧ナ変・ラ変も含)する動詞に対してはその未然形に付くが、その他の活用(1段・カ変・サ変)をする動詞に対しては連用形に付く。

    • 5段活用動詞に付く例:「書く・読む」 → 「書か‐へん・読ま‐へん」
    • 1段活用動詞に付く例:「上げる・下げる」 → 「上げ‐へん・下げ‐へん」
  • 「へん」の直前の音節が「いの段」である時(つまり動詞の語幹が母音[i]で終わる時)、「へん」は「ひん」に変化する。従って「起きへん」ではなく「起きひん」、「落ちへん」ではなく「落ちひん」と言う。

  • 「見る」「いる」「出る」など、連用形が1拍しかない動詞に付くときには、連用形を引き延ばして「みいひん」「いいひん」「でえへん」と言うか、もしくは「へん・ひん」の代わりに「やへん」を付けて、「みやへん」「いやへん」「でやへん」と言う。
    (後者は「見はせん→見やせん→見やへん→見いへん→見いひん」という変遷の名残)

  • 「する」に付くときだけは特別に、上にあげた規則通りの「しいひん」「しやへん」という言い方の他に、「せえへん」という言い方が用いられることもある。

1-5-2-3 2種類の不可能~「できん」と「ようせん」

 京ことばには他の西日本方言同様、不可能を表す表現として「読めん・書けん・見られん」のような「動詞の可能形の否定」によるものと、「よう読まん・よう書かん・よう見ん」のような「副詞『よう』+動詞の否定」によるものとの2種類の言い方があります。
 これらは互いに意味が少し異なりますので、どちらを使っても良いというわけではありません。

 たとえば、「読めん・読めへん」といえば「電気が暗うて読めへん」とか「眼鏡があらへんし読めへん」というように「状況による不可能」を表しますが、「よう読まん」といえば、「こんな難しい字、よう読まん」というように、「能力的不可能」や「そういう気になれないという意味での不可能」をあらわします。

例:

「そんなことよう言わんわ」 …… 言う気になれない、という意味。
「そんなこと言えへんわ」 …… そんなこと言えるような状況じゃない、と言う意味。

 たまにこの二つの表現がごっちゃになった「よう読めん」「ようできん」というような言い方が聞かれることもありますが、これは誤用です。

1-5-2-5 避けられる傾向にある表現

 動詞も形容詞同様、仮定表現は「読んだら」など「たら」形が好まれ、「読めば」など「れば」形は堅い表現として避けられる傾向にあります。
 また推測は助動詞「やろう」をつけて「読むやろう」と言うのが普通で、「読もう」は意向を表す場合にのみ使われます。これは助動詞「ます」が付いた場合も同じです。

1-5-2-6 その他


1-5-3 動詞のテ形(~しての形)の縮約

「言うて」「書いて」「読んで」など動詞のテ系(~しての形)はしばしば後ろに続く補助動詞と融合し、テ付近の発音が変化したり音の省略が起こったりします。

1-5-3-1 進行形「~している」の短縮形

「見ている」「言うている」など「~している/~●●●●」という表現は、途中の「い」を落とした「~してる/~●●●」という形がよく使われます。過去・完了形の「~していた/~●●●○」も同様に「い」を落とした「~してた/~●●○」という言い方がよく使われます。

 なお「~している」「~してる」の意味で「~しとおる(~シテオルの転)」「~しとる(左の短縮形。旧市街では稀)」と言うことは出来ません。京都市の旧市街地では「~しとおる」「~しとる」には対象を見下すような意味合いがあるため、「誰々が何々しとおる・~しとる」と言うと「誰々」のことを小馬鹿にしているようなニュアンスが出てしまいます。これに対して「~している」「~してる」は中立で、そのような含みはありません。

1-5-3-1-1「~している」の否定形

「何々している」という表現の否定形は、原則通りなら「~していん/●●●●」「~していいひん/●●●○○○」 「~していやへん/●●●○○○」のどれかになるところですが、実際の日常会話では「してへん/●○○○」という言い方がもっともよく使われます。
 この表現は、肯定形と同じように否定形でも途中の「い」の省略が起こった結果、「していやへん→(イの省略)→してやへん/●●○○○→してへん/●○○○」という変遷を経てできたものです。
「~してる」という表現は「~して」と「いる」との結びつきが強く、「~してる」という語形自体があたかも(~シテ+イルの2語ではなく)1語の1段動詞であるかのように活用すると考えることもできます。

 現在形のみならず活用させた場合も、「見ていなんだ/●●●○○○(『見ていなかった』の意味)」「言うていんと/●●●●○○(『言っていないで』の意味)」よりも、「い」を省略した形である「見てなんだ/●●○○○(原形:見ていなんだ。『見ていなかった』の意味)」「言うてんと/●●●○○」などのほうがよく使われます。

1-5-3-2「~してある」の縮約形

「机の上に本が置いてある」のような「~してある」という表現では、しばしば母音の同化が起こって「~シタール」のように発音されます。過去・完了形の「~してあった」も同様に「~シターッタ」のように発音されます。「~してある(シタール)」「~してあった(シターッタ)」ともにターの部分が短母音化することはまずありません。

 その一方で否定形「~してあらへん(シターラヘン)」は、しばしばターの部分が短母音化します。

 京都言葉の「~してある」は共通語のそれより少し用法が広く、特に生物でないものが主語となる時には、共通語では「~している」と言うところに「~してある」が使われることもあります。

1-5-3-3「~しておく」の縮約形

「調べておく」「聞いておく」など「~しておく」という表現は、日常会話ではしばしば「~しとく」のように言います。これは「~しておく」の「て」と「お」とが融合して「と」となったものです。
 同様に過去・完了形「~しておいた」や否定形の「~しておかへん」「~しておかんと」も、「て」と「お」とが融合した「~しといた」「~しとかへん」「~しとかんと」という言い方がよく使われます。

 東京語・共通語の「~しないでおく」に相当する京都言葉は「~せんとく」です。これは否定の連用形「~せんと(『~しないで』という意味)」に「おく」が付いた「~せんとおく(セントーク)」のトーの部分が短母音化したものです。

1-5-3-4 その他の縮約形

 他にも動詞のテ系(~しての形)の後ろに次のような動詞が来た時、発音の縮約が省略が起こります。

 西日本の方言の中には「~してやる」のテとヤとが融合してチャとなり、~シチャルのように言うところもあるようですが、京都では直音化した~シタルのみです。

 この種の縮約や省略は連続して起こることもあります。


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